球磨川


災害は地域に大きなダメージを残しました。 今尚、被災地では懸命な復旧活動が続いています。
そんな中、2022 年球磨川リバイバルトレイルが誕生!
選手が走る姿(ボロボロになりながらも前に進む姿)が地域に大きなエールを届けました!
本大会に関わる被災した方々のそれぞれのストーリーを是非ご覧ください。

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  • CASE2
  • CASE3
  • CASE4

CASE2 吉田 諭祐さんの場合

■たった1時間での変貌。避難の選択肢

7月4日未明、八代平野も大雨が降っていましたがいつも通り。しかしながら携帯電話のアラートは何度も鳴り響きおぼろげに胸騒ぎを感じながら朝を迎えました。
翌朝6時過ぎ、この胸騒ぎと共に球磨川の様子を確認しにいくと、生まれて初めての球磨川の姿を目の当たりにしました。帰宅し妻へ球磨川の様子を「これはただ事ではない」と報告しました。
一家の主として賢明な判断と行動をしなければならない!と家族みんなをハイエースに乗せて避難を試みました。

南下する→大雨前線と同行することになる。
高台に登る→大雨のなか山手に居る方が危険ではないのか?
球磨川から離れる→球磨川と前川に架かる2つの橋を乗り越えなければならない。国道3号線は大渋滞、大型トラックやダンプカーが通過すると橋がグラグラと揺れる。橋の下には大蛇と化した球磨川。

結果、球磨川を離れるという決断をし、ハンドルを握る責任を背負い、恐怖感をひた隠しにしつつ2つの橋を乗り越え球磨川を離れ、八代市千丁町のカネムマンソーセージ・村上君の自宅へ避難しました。
束の間の安堵ののち、脳裏には来月に控えた「第3回やっちろドラゴントレイル」の舞台となる坂本町の被災状況しかなくなり、「坂本に行かないかん」と何度も呟いていました。

7月4日午後、市房ダム緊急放流解除の知らせを聞き、自宅に帰宅。過去に例を見ない球磨川の姿を目に焼き付けることとなりました。

■地域での温度差を感じながらも、新たなコミュニティで支援活動を

坂本町などに関心や関係がある人々とそうでない人々との温度差が激しかった気がします。被災地に向き合う八代市民、そうでない市民もいたように思います。
「熊本地震の恩返し」の気持ちも含めて、坂本町でのボランティア活動に励む八代市外の人々と、コロナ禍の中支援してくれる熊本県内の人々で、災害に立ち向かう「チームドラゴン」という新たなコミュニティを形成することになりました。

■トレイルランニングの強みを活かした復興への活動

球磨川

鹿防護ネットの設置活動の看板

7月5日午前、不通となっていた国道219号線ではなく「やっちろドラゴントレイル」のコースを通り、発災から誰も足を踏み入れることが出来なかった坂本町の中枢部へ行き、被災の実態を写真におさめSNS等々で情報発信していきました。

7月10日、「坂本町災害支援チームドラゴントレイル(通称チームドラゴン)」を立ち上げ、家屋約55件、ボランティア参加者数延べ約1,200名の活動をやり遂げました。

2021年1月、球磨川流域の水害が甚大になってしまった要因の一つとして山々の荒廃があると判断し、その要因のひとつである「鹿の食害」問題に向き合い、鹿防護ネットの設置活動を行いました。

吉田

鹿防護ネットを取り付ける吉田さん


山々が本来維持していた「天然ダム」としての保水力を取り戻すこと、大雨が降ってもしっかりと保水し支流への流水を抑制する力を取り戻すことが、球磨川本流の水位上昇を抑制することにつながると考えています。
そしてそれが、人々が安心して暮らせる基盤となるのではないかと。

本当の意味での“復興”とは、やはり自然そのものが本来の力を取り戻すこと。その上で我々人間の生活があることをもう一度見つめ直さないといけない。災害を経験したことで、私たちが暮らす自然を見つめ直すチャンスとなったと感じています。

■トレイルランナーが発信する「被災地復興」のひとつのシンボル

球磨川の生まれる源流の大自然、その恵みを運ぶ球磨川、そして僕らの暮らす町や村、そして世界へ広がる海。
トレイルランニングというスポーツは、自然をフィールドとした特性を持つスポーツなので、環境問題などに直結する側面を持ち合わせたスポーツだと感じています。
「気候変動」「気候危機」等々、これまでに聞くことがなかったワードが現実味を帯びてきている2020年代に生きる我々は、文明の基盤のもと便利な工業生活を送るなか、山の恵みに生かされてきた事実を忘れ、今では山々に足を踏み入れることすらなくなってきています。
この大会は、トレイルランニングというスポーツを通して山々に足を踏み入れる稀有な存在となっていると考えています。

多くの人々が気づけない山々の環境の変化や異変、または守らなければならないそれぞれの山々の恵まれた環境。それらに気づく感性を養う稀有な大会としての今後の発展、また、被災した球磨川流域へトレイルランニングが持っている「諦めない」「みんなで助け合う力」を体現し、被災地復興のひとつのシンボルとなってもらいたい。
その一躍を全国からのトレイルランナーに担って頂きたい思いです。
球磨川
名前 吉田 諭祐
出身地 熊本県八代市
被災時の居住地 八代市植柳上町
「やっちろドラゴントレイル」主催者。チームドラゴン代表。自然環境保護活動に熱心に取み、各方面で信頼と実績を得ている。